その3 奇跡
話は少し戻って高3の4月
新年度になり、通っていた塾のクラスも新しくなった。僕は英語数学物理化学を習っていた。
物理のクラス。初回。扉を開けたら同じ高校のやつがたくさんいた。他校の知り合いも数人いた。これはうるさくなりそうだ。
そう思っていた時。
ガチャッ。
えっ。
さやが入ってきた。そして座った。
おいおいまじかよ。
仕組んでない。本当に偶然、同じクラスになってしまった。
頭が真っ白になった。それでも平静さを装うために会話を続けた。さやは僕に気づいてくれているだろうか。自然と声量が大きくなってるような気がした。
授業は全く頭に入ってこなかった。先生の時々の白目が気になりすぎてしょうがなかった。
授業後メールした。
物理のクラス一緒な気がする!
え、そうなの?
いや興味なさすぎだろ。なんだこいつ。
次週は気づいたらしく、メールを送ってきてくれた。
ちなみにさやは先生の白目の話を共感してくれなかった。
4月も中旬、本格的に体育祭の準備が忙しくなり、塾の授業を受けるのが物理的に不可能になっていった。
さやに会えない?
ふふっばかめ。
体育祭の準備が忙しくて授業に来れそうにないんだけど、よかったらノートを貸してくれない?
さやは了承してくれた。さすがにクラス一緒の知り合いにノート貸すくらいは問題ないと思ったのだろう。まだ知り合って間もないけど。ほぼナンパみたいな形から始まったけど。
体育祭の準備はだいたい夜までかかった。それでも、さやからノートを貸してもらうため、いや会いに行くために準備の後塾に行った。入り口で会い、ノートを貸してもらった。
ありがとう。
よかったら一緒に歩いて帰らないか。
さやは了承した。今思えば奇跡。
そのままサザンテラスを一緒に歩いて新宿駅まで行き、小田急に乗るさやを見送った。
運動会忙しいんだよね。
そうなんだ。いま、授業全然少ないの。スカスカ。
そうだよね、まぁでも多分5月になったら坊主集団が一気に補充されるよ。
なにそれ笑
これを機に定期的に一緒に歩いて帰るようになる。
さやと僕を結ぶ上で重要なルーティン。
(続く)